ウイッテ伯回想記「日露戦争と露西亜革命」その067

ロシアの歴史 タイトルロシア

第九章 遼東半島占領事件

第七段 ドイツ大使の暗号電報

ウイッテ伯は、今回のドイツ膠州湾占領の経緯をドイツ大使になじります。ですが、その事がロシア皇帝に知られてしまいます。

ウイッテ伯の気持ちとロシア皇帝の気持ち

ロシア艦隊が旅順付近にあって、まだ上陸はしなかった時分、ウイッテ伯はイギリス大使オ・コンナーやドイツ大使ラドリンと4~5回逢いました。
特にラドリン大使とは個人的に良い関係を持っていました。
ドイツ大使は休暇から帰ると直ぐにウイッテ伯の所へやって来ました。
二人は現在極東で起こりつつある事件について話し合いました。


大使はウイッテ伯に問います。
「貴下は今度の事件についてどうお考えですか?」
ウイッテ伯は答えました。
「まるで児戯としか思えません。遺憾なことにはそれが非常に悪い結果になりそうです。」

ここでウイッテ伯が児戯と言ったのは、問題の発頭人であるドイツ皇帝の行為を指したのである。
ラドリンはウイッテ伯との会議の大要をベルリンに打電する必要があるといいました。しかしどんな形式で打電したかウイッテ伯はしりませんでした。
我が外務省では他の各省と協力して絶えず変更される各国の暗号表を手に入れていて、非常に難解な外国大使の打つ暗号電報を反訳する事に努めていました。
ウイッテ伯のいた時分には、或る暗号はどうしても解く事が出来なかったのですが、大部分の暗号電報は、今では容易に反訳しえる事でした。


ウイッテ伯とラドリンとの会話も、こうして反訳された上でムラヴィヨフ伯の手に渡ったのでしょう。
ラドリン大使と会合してから4~5日たって、ウイッテ伯は皇帝陛下の所へ行きました。陛下はいつになく冷たい態度でウイッテ伯に接しました。ウイッテ伯が別れを告げて立ち去ろうした時、陛下は立ち上がって言いました。
「セルゲイ・ウイッテ!僕は君に言っておくが、外国大使と話すときにはもう少し慎んでもらいたい。」
ウイッテ伯は、陛下がどの会話を指して言っているのか、すぐに了解でしませんでした。
で、陛下に答えました。
「陛下、陛下のお言葉は誰との会話を指して言われるのか私にはよく解りかねます。
しかし私は少なくとも外国使臣と会談する時、陛下と私の祖国に害を与えるような事を言ってはならない事だけは存じております。」
これに対して、陛下は何とも答えませんでした。

ウイッテ伯は、ドイツの膠州湾占領事件について駐露ドイツ大使ラドリンに愚痴ります。
当然ラドリンは、その無礼な言葉について本国に電報で知らせます。
この当時、ロシア帝国では、他国大使の電報を傍受していたようです。
今でもロシアは同様の事をしているのかもしれません。
ロシアだけでなく他の国々も行っているかもしれません。


ニコライ二世帝は傍受した内容からウイッテ伯をなじります。
ですが、伯の言い返しに対して対応できないでいます。ロシア皇帝も今回のドイツの占領事件には、正義が無いと考えているのかもしてません。
ただ、正義以上の利益がそこに有るのに手を伸ばさないのは、勿体ないと考えているのかもしれません。
どちらが良かったのかは、後に歴史が答えを出してくれるでしょう。

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