ウイッテ伯回想記「日露戦争と露西亜革命」その063

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第九章 遼東半島占領事件

第三段 ムラヴィヨフ伯外相の功名心

欧州列強が国際ルール・何が正義かを決め、世界中でやりたい放題であった18~19世紀。それでもロシアが行おうとしている占領に正義はあてはめられるのでしょうか。

外務大臣の野心

ムラヴィヨフ伯は、凡骨でありながら非常に功名心の強い人物でありました。
絶えず何か人より勝った仕事をしてやろうと焦っていました。
彼よりも先に大臣になったウイッテ伯が、ロバノフ・ロストフスキー候と二人で極東で成し遂げた大きな政治的結果は少なからず彼の心を刺戟したに違いないのでした。


我々は一方東支鉄道の敷設に成功すると共に、他方朝鮮には日本に比較して遥かに優越な勢力を扶植しました。
また清国とは非常に親善な関係を結びました。
また日本がシベリア大鉄道のウラジオストクまで貫通する結果受ける利益を期待しているのを利用して、日清戦争後の遼東半島還付問題以来結んで解けなかった相互の敵愾心を緩和して、日本と和解することに成功しました。


すべてこれ等の事実は、功名心の強いムラヴィヨフ伯の心の平静を強く害していたのであります。
ウイッテ伯はこの会議に臨んでから、彼等の企画は何としても理屈に合っていない、という考えがますます強くなりました。


もし、ドイツの艦隊が占領の目的をもって青島に入港し、その企画を我々が明確に看取りしたなら、我々はドイツに対して何等か積極的処置をとるのが当然であります。
仮に今ドイツが青島を占領したとします。それがロシアに有害であり、我々はそれを希望しないとします。
また青島はロシアに必要であったとします。この場合、ドイツが不当な行為をしたことが判った時、我々はどうするか。まさか、ドイツが行ったようにロシアも清国の領土を占領しようと結論する者は有りますまい。
しかもドイツは清国の同盟国ではありません。
我々は清国の領土保全を約束していました。
そこへ防御するでなく、不意打ちにロシア自ら清国の領土を占領様な事。
そんな馬鹿げた理屈はどう考えてもあり得ない事ではないでしょうか。

ムラヴィヨフ伯の個人的利益である功名心を満足する為だけに、一国に国外占領戦争を起こさせようとしています。


ロシア帝国は、日本が日清戦争に勝利した結果獲得した遼東半島を、正義を建前に放棄させました。
やり方は、銃口を向けながらの脅しでした。
その理屈からすればドイツの行動も当然容喙しなければならないわけですが、それには触れずに自国も領地獲得できる状態であったとみるや、占領計画を立てています。
オスマン帝国に対してもそうでした。
この矛盾したロシア帝国の外交政策が世論秩序を混乱させたと言っての言いすぎではないと思います。


ウイッテ伯の正義を建前にした三国干渉が、この時代の秩序を狂わせたと私は思います。
過去の現在も世の中は、ほんの一部の権力者の個人的利益の為に戦争は行われる事が多いのではないでしょうか。

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