ウイッテ伯回想記「日露戦争と露西亜革命」その062

ロシアの歴史 タイトルロシア

第九章 遼東半島占領事件

第二段 ロシアの遼東占領計画

ドイツの膠州湾占領に刺激されて、ロシアでも清国の一部を占領するべきと言う計画が上がりました。

旅順・大連占領会議

それから間もない10月の初めの事です。
ウイッテ伯と他の2・3人の大臣はムラヴィヨフ伯から覚書を受け取りました。
と同時に、この覚書について審議をする御前会議に招かれたのでした。


この会議には、陸軍大臣ワンノフスキーとウイッテ伯と海軍大臣トゥイルトフとムラヴィヨフ伯が出席しました。
ウイッテ伯の受け取った覚書には、ドイツが青島を占領したのは我々にとって清国に一つの港湾を占領する絶好の機会である。
それには、旅順港と大連港を奪取するのがよかろう、というようなことが書かれてありました。


ムラヴィヨフ伯は会議の席上で言いました。
「その占領、もっと正しく言えば、ドイツのこの強奪政策を利用してロシアは極東における太平洋沿岸に港湾を獲得する事が必要である。
それには戦略上重要な位置を占めているこれ等の港湾(旅順・大連)を占領するべきである。
今こそこれを敢行するに絶好の機会である。」


ウイッテ伯は極力このやり方に反対して、次のような意見を述べました。
「かつて我々はこういう占領に対し極力清国の領土保全を主張した。
そしてこの主張により日本をして遼東半島を放棄せしめた。
しかも大連と旅順はその遼東半島の中に包含されているのである。
また我々はその日本に対抗して清国と秘密防衛同盟を締結している。
その際我々は清国の領土を占領しようとする日本の一切の方針にたいし清国を防護すべき義務を負うたのである。
そういう約束をしておきながら、自らこれに類した占領をすることは非常に不穏な且つ悪辣な手段である。それのみでなく、もしこんな悪辣な方法をとって日本にも清国にも疑惑の念を起こさせた場合、この方法は大きな危険に遭遇しなければならない。
なぜならば、我々は現に蒙古と清国の領土を経て東支鉄道を建設し始めたばかりである。
そして幸い我々は今彼の地に優越な立場を占めている。ところが旅順・大連を占領すれば現在我々に対して極めて従順親密な関係を持つ清国をして非常な反感を起こさせるに違いないからである。
その上に、大連・旅順を占領した場合、我々はこの両地点の占領を確実に保証する為、この地方と東支鉄道とを連接する必要が起こる事は極めて明らかな事である。
そうすれば我々はそこに支線の建設を余儀なくされる。そしてその支線は、清国人の人口稠密な満州を横切り清朝発祥の地である奉天を経て建設しなければならない。
せべてこれ等の事は我々を最も不幸な結果に導くばかりである。」


陸軍大臣は少しも外交問題を考慮に入れないで、極力ムラヴィヨフ伯の見解を支持しました。
「もし外務大臣がこの手段を取る事が危険でないと考えるなら、陸軍大臣としては、旅順・大連の占領は極めて必要なことである。」
と力説しました。


海軍大臣は問題の本質には少しも触れないでただ海軍当局者の見地からだけ次の様に説明しました。
「海軍の為には太平洋にもっと近いどこか朝鮮の沿岸にロシアの港湾を持つことが便利である。
旅順・大連はその意味で海軍大臣を満足させる地点とは言い難い。」
ウイッテ伯は、これは恐るべき結果を招く宿命的な仕事である。と考えて、幾度か外務大臣や陸軍大臣と論争を繰り返しました。

その際ウイッテ伯は、
「この企画に対しては日本もイギリスも決して平然とこれを見逃しはしまい。」
と指摘しました。


すると外務大臣は、
「それに対しては自分が全責任を負う。
日本やイギリスはこの問題に関する限り何等の報復手段に出ない事を自分は確信する。」
と明言しました。


皇帝は、ウイッテ伯の熱しきった論争の態度を見て不愉快に思われたのだろう、彼等と強調するようにウイッテ伯に勧めました。
こうして愈々議事録を作製することになったのですが、その議事録には、陛下は、外務大臣の提議に同意を希望しない旨がしたためられてありました。

ドイツ帝国の膠州湾占領は、1897年11月14日でした。ロシア暦に代えると、11月2日です。
10月の初めの事とは、ウイッテ伯は何か勘違いをしているかもしれません。
11月の間違いでしょう。


旅順・大連占領を行うべきか会議が開かれ、ウイッテ伯は全面的に反対を訴えています。
東支鉄道の路線より、ロシアの勢力が南下する事は李鴻章からも厳重に警告されていました。
ウイッテ伯はその意味をよく理解していたのだと思います。


ニコライ二世帝はなぜ外務大臣の提議に同意を希望しなかったのでしょうか。反対意見があるのならば会議で占領の意思がない事を言えば良いように思うのですが…。

参考

膠州湾租借地”.wiki pedia.(参照2023-05-02)

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