ウイッテ伯回想記「日露戦争と露西亜革命」その039

ロシアの歴史 タイトルロシア

第五章 金貨制度の実施

第一段 幣制改革と国立銀行

慢性的な為替不安を打開するために、金本位制を検討し始めるウイッテ伯ですが、手探り状態です。

30年続く為替不安

ロシアにおける幣制改革については、アレクサンドル三世時代にすでに予定されていました。
これについては、ウイッテ伯自身も参与する公栄を負うた者でありました。


この幣制改革は、不幸なる日露戦争と、これに伴って惹き起こされた不詳な結果、つまり当時の逼迫せる財政状態にも関わらず、ロシアの財政を根本的に救いえたのでした。
しかしここで一つ言っておかなばならない事は、ウイッテ伯の大蔵大臣たりし当時、正貨に基礎をおいていた通貨の流通状態は疑いもなく良好であったという事でした。
ウイッテ伯でも以前、この問題に対して深く研究することが無かったわけですが、多少の危惧は持ってはいました。
けれども、直接これに参与するに及んで大した困難を味わうこともありませんでした。


ロシアはセバストポリ戦争以来数十年間、紙幣を基礎とする幣制を採用していました。
当時、1880年代の末に暮らした人々は一人として正貨流通する姿をみた者も無ければ、知った者もおりませんでした。
また、大学や専門学校においての正しい通貨の流通理論の行われている所は一つも無く、少なくとも正貨の流通理論が課目となっている所は絶対に無かったと言って差し支えありませんでした。
これは、通貨の流通が現実的に行われていない為、理論的にかかる問題を考究しても、実際的には何の役にも立たないと言った風な空虚な原因に出発しているのでした。
実際、当時かかる理論についてロシア語で書かれた優れた書物や教科書は、次の物を除けば絶無であったと言ってよいと思います。
第一は、ニコライ・フリスチァノヴィッチ・ブンゲがキエフ大学教授時代に書いたものです。
第二はデブトスキー大学教授ワグネルの著作でした。この人は後にこの大学を辞してベルリン大学教授に転じ、今なお健在なのでした。

セバストポリ戦争とは、1863年から始まったクリミア戦争のさなかに起きたクリミア南端のセバストポリ要塞包囲戦の事です。
ロシア軍は要塞に立てこもり、トルコ・イギリス・フランス連合軍と戦いました。
ロシア軍は1年にわたり抵抗しましたが、セバストポリ要塞から撤退しました。
結果黒海の制海権を失いました。


ロシアではクリミア戦争以後、貨幣価値が不安定な時期であったようです。
その打開策が、紙幣でなく金本位の兌換正貨だったのでしょう。


日露戦争後の情勢不安も金本位制のお陰て切り抜けられたとウイッテ伯は考えています。

個人的には、紙幣を金貨に変えなければならないようでは、国の信用が無い事の証明でしかないように思います。

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