ウイッテ伯回想記「日露戦争と露西亜革命」その024

ロシアの歴史 タイトルロシア

第二章 李鴻章と東支鉄道利権交渉

日本国魯西亜国通好条約の原文(外務省外交史料館蔵)
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第九段 露清条約締結の日

外務大臣ロバノフ候・大蔵大臣ウイッテ伯そして李鴻章が集まり、ついに露清秘密条約を締結する時を迎えました。

ロバノフ候のエラー&フォロー

ロシア全権ロバノフ候とウイッテ伯は、清国全権李鴻章と共に、随員を従えてロバノフ候の宿舎で会合しました。


ロバノフ候が次の様に挨拶を始めました。
「今日我々は特に重大なる協約書に著名調印するために参集したのである。
協約書の内容は両国全権の既に知悉する所である。ここにある清書した協約書は聖書後最も厳密に原文と反復照合した末一点相違なきことを確かめたものである。
よって今日はその朗読を省略して差支えないと考えるが双方随員の中にはなお一読を欲せらるる向きもあるかも知れないから双方に各一部を交付する。」


ウイッテ伯は自分の前に置かれた協約書を手に取り一読しました。
言うまでもなく例の条項部分が原案通りになっているか確認する為でした。
ところが驚いた事に、清書された条約文は原案の通り対手国を「日本一国」に限定されておらず広義に「いずれかの国」と書いてあるのでした。
この条項は重大な意義を有しているからこそ、わざわざ陛下に上奏し、陛下の口添えによってロバノフ候が原案に復帰するようにしたはずなのである。
どうしてもこのままで調印することは出来ないので、ウイッテ伯は侯爵の所へ近づき、小声で詰問するように言いました。
「侯爵、この条項は御思召の様に改めてないではありませんか。」
ウイッテ伯は侯爵が何か低意があってこうしたのではないかという疑いもあったもので、語気が少し強く響いてしまっていたかもしてませんでした。


侯爵は、じっとウイッテ伯の顔をながめていましたが、意外にも突然自分の額を叩いてこういいました。
「あっ、しまった。とんだ失策をした。実はあすこの所を改める様に書記に命じるのを忘れた。」
侯爵は、格別に狼狽した態度の無く、時計を出して眺めました。
時間は12時を15分ほど過ぎていました。
候は急に手を鳴らしてボーイを呼び、急いで食卓の用意をする様に命じました。
「諸君もう12時を過ぎました。時を過ごすと料理がまづくなります。
まづ食事を終わって、事務はそれからの事にしましょう」
伯爵は先に立ってずんずん食堂へ入って行きました。
他の者は主人の意に従う他ない状態で、いづれも主人の後について食堂へ入って行きました。
客室には、二人の書記だけが居残っていました。


食事が終わり皆が客室に戻り一同が着席した時、卓上には二通のウイッテ伯が望む条項に変更された協約書が有りました。皆が食事をしている間に書記が清書しなおしたのでした。
両国の全権はうやうやしく各一通を手に取って、形式どおり著名を完了させました。


ウイッテ伯は回想します。
「もし、我々がこの協約を忠実に厳守したならば、あの辱多き日露戦争を惹起する事もなく、ロシアは極東において堅確な立場を保ちえたであろう。
ところが、何たる運命ぞ。我々は深いたくらみなく、ただ一片の浅慮からこの協約を自ら破棄して、今日の如く極東における声望を失墜するに至った。
実に遺憾の極みである。」

今一はっきりしないのですが今回結んだのは、協約なのか?条約なのか?
調べてみたら、意味は同じだそうだ。意味合いは
「国家間において文書により締結される国際的な合意」
なのだそうです。また、協約、条約だけでなく、協定も同意だそうです。


ロバノフ候はわざと間違えたのでしょうか、それとも本当に失策をしたのでしょうか。
今回は情報が少なすぎて全く妄想できませんでした。


間違いが発覚してロバノフ候が昼食を提案して書き直す時間を作るわけですが、機転きくなあと思うと同時に無理があるなあと思いました。
ロシアでは昼食を13時~15時ぐらいにいただくと聞いた事が有ります。
ロシア人どうしの協議であったら、不自然すぎて出来ない時間稼ぎ策だと思いました。

ウイッテ伯の回想は、1910年ごろに思った事柄です。
彼が計画した満州進出が成功していれば、国力も十分蓄えられ、1914年に起きた第一次世界大戦もロシアが有利に戦えたかもしてません。

上巻が売り切れ中です。もう、中古書では出回らないのかなあ。

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