第一章 ニコライ二世帝統治の初期
第三段 皇太后マリア・フェオドロヴナ
ニコライ二世帝の母親、アレクサンドル三世の妃マリア・フェオドロヴナはデンマーク王クリスチャン9世の次女で、イギリス王エドワード七世の妻である王妃アレクサンドラ・オブ・デンマークの妹です。

ヒステリー
ウイッテ伯はやがて行われる厳格な葬儀まで、アレクサンドル三世の棺側に2・3度従立し、一度は夜間警衛もしている。葬儀が始まり大主教の長たらしい説話が終わろうしたころ皇太后は叫んだ。
「もういいのよ。もう沢山です!」
臣官として亡き皇帝のそばに従立する態度はやはり忠誠心を表すためなのでしょ。それとものそうするしきたりがあったのでしょうか。
葬儀中に皇太后が感情を抑えきれずに叫び声をあげたことをウイティ伯は、「流石に彼女はいたたまれなくなって、すこしの間、一種のヒステリーの発作に襲われた。」と表現しています。外国では皇位についている人が式典の最中に感情丸出しになってもあまり非難されないようです。日本だったらもっと非難じみた言葉を投げかけられているかもしれません。
RUSSIA BEYOND に「ツァーリのお葬式」という記事がありました。ロシアではピュートル大帝以前(18世紀)は泣き女を用意してでも嘆き悲しみ、参列者の弔辞の言葉が聞き取れないほどだったそうです。葬儀の様式はその後変わっていったようですが、悲しいいう感情を表に出すことは、非難されることではないのだと思います。
口の悪いエドワード七世
ニコライ二世が即位して間もなく英国皇儲(こうちょ)がペテルブルグに訪問されて、非常に親しげに対応していました。ペテルブルグに滞在中のある日、皇帝ニコライ二世や皇后アレクサンドラ・フョードロヴナと朝食を共にした後で、皇后と二人きりになると皇后に向かってかなり露骨な態度で
「ほんとにお前の夫の横顔はパウェル皇帝にそっくりだね」
と、言い放ったそうです。皇帝も皇后もすこぶる気に入らなかったと、ウイッテ伯は後に親しくなった英国皇儲から直接聞いたそうです。

ここていう英国皇儲とは、イギリスの皇位継承者、後のエドワード七世(この時はアルバート・エドワード皇太子)です。現在日本では皇位継承者、王位継承者、大公位継承者すべて「皇太子」と呼ぶようです。歴史上の話となると又、呼び称号がまちまちになるそうです。
「パウェル皇帝そっくりだね」話しも当然何か皇后と会話を交わしている最中に出てきたものと思えます。ひょっとしたら笑えないブリティッシュ・ジョークだったのではないでしょうか。エドワード七世が100年前の人物であるパウェル皇帝の顔を知っているとも思えません。